ツールカード
「なぁトーヤ、ちょっといいか?」
「なんだいダイスケ君や」
講義と講義の合間の休み時間。そこで頼み事をするべく俺は親しいと友人と言えるだろうダイスケを訪ねていた。
「ちょっーと聞きたいことがあるんだけど」
「レポートの写しは無しだよ?はい、さよなら」
彼はそそくさと離れて行こうとする。ちょっと酷すぎないか……。
「違うって!そんなんじゃない。ちょっと服が解れてる箇所があるからハサミとか貸してくれないか?」
「なんだよー。それならちょっと待ってて。最初に言ってくれれば良いのに~」
曲解していきなり立ち去ろうとしたのはそっちじゃないか、と反論しようと思ったがそれで借りれなくなったら困るのはこっちだ。ここは我慢しておく。
「はいどうぞ」
そう言って彼が渡してきたのは普通のとは違ってかなり小さい。手芸用のハサミより小さいんじゃないだろうか。
「助かる。それにしてもこれ、相当小さいけどどこにしまうんだ?無くしてしまいそうなんだが……」
「ああ、それはね。ツールカードの一部なんだ」
「ツールカード?」
知らない単語が出てきてしまってつい聞き返してしまった。そんな俺にダイスケはサクサクと話を進めていく。
「十徳ナイフみたいなモノかな。それをより日常使いに特化してる感じ。大きさも大体クレカぐらいで財布とか入れて置けるんだよ。まるで秘密道具みたいに、ね」
「秘密道具……だと!?」
「そうさ。それはさながらドラマのスパイ工作員かのような……おっともう講義が始まるね。返してくれー」
「お、おう」
秘密道具……スパイ……素晴らしい響きだ。
次の講義の最中、俺は通販サイトでポチった。
「VICTORINOX マルチツール 0.7322.T2 スイスカードライトT2 BL」
より貴方の身近に。