おはなしコマーシャル

おはなしにコマーシャルをくっつけたら、もっと素敵になりました

電気チリトリ

 私はね、うるさいことが嫌いだ。

 ああ、歌とかカラオケとは度が過ぎなければ好きだよ。私が嫌ってるのは騒音だとか、ノイズとかの方だ。

 なぜなら、それらとても耳障りだからだ。私は静かに寛ぐことが好きなのにそれらはその空間を悉く壊してしまう。

 家電というものは音を発するものがとても多い。人間の代わりに力仕事をしているのだから仕方ないは思う。特に掃除機、あれはいけない。他のモノは遠ざけたり、遠ざかったりすればいいのだが掃除機は違う。常に近くで大きい騒音がするのは耐えられない。

 妻にそう伝えて、半ば無理やり納得させて今はフローリングワイパーに変えさせた。最初は渋っていたが今は扱いやすいこっちの方が良いと鞍替えしている。私も悩みの種が減ってウィンウィンである。

 そして、今日。このワイパー派である私たちの元に新しい仲間が出来る。それがこの「電気チリトリ」だ。

 これで今まで難しかった吸い込む掃除を簡単に出来るようになるだろう。

 朝の静かなリビングで音楽を楽しむ。この楽しみだけは外せないな。

 

「シー・シー・ピー ZN-DP24」

 より静かに。より機能的に。そして、掃除しやすく。

スーパーフルーツC スパークリング

 「ただいまー。……兄貴、今度のそれはなに?」

 バイト終わりでくたくたな状態で家に帰ってみたらリビングで兄貴が静かに佇んでいた。パンイチで。何で? 

 「おう、おかえり。なにって……どう見ても優雅な風呂上がりの一杯だろう?」

 絶対違うと思う。万一、そうだとしてもパンイチになる必要は無いと思うんだ。……そう思ったけれど、この人の突発的な行動には言っても伝わらないから諦めよう。もう何回言ったか分からないし。

 「……で、そのユウガな風呂上りの一杯とやらはなに?」

 「よくぞ聞いてくれた! これは今俺の中で流行っている飲料だ。お前も飲んでみてくれ。布教活動とやらだ。どうせバイト終わりなのだろう?」

 そう言って兄貴は同じ飲料を差し出してくる。のどが渇いているのは確かなので貰っておくのに越したことはない。言ってることはまともなんだよなぁ、パンイチじゃ無ければ。

「一応、貰っておくよ」

 さてさて、見た目は普通のアルミ缶だ。内容量はあまり見かけない250ml。初めて飲むなぁ。渡されたのは『伊藤園 スーパーフルーツC スパークリング』ってやつ。見たことないな。

 さっそくプルタブを開けて喉を潤す。フルーツ系独特の酸味と炭酸の爽快感、それにちょっとした渋味を感じる。

「味は人それぞれだから省くけど、飲みやすくていいね、これ。これくらいの量ならその場で軽く飲めちゃうね。350mlだと飲みきれないことあったから」

「だろう? 俺もその場で飲み切りやすいコレが好きでな。だからこうやって通販で買い置きしてあるのだ」

 好意的な意見を貰えたからか、兄貴はさらに宣伝してくる、パンイチで。そろそろ寒く無いのだろうか。

「あーうん。また良かったからさ、バイト終わりの日とかに貰っても良いかな?」

「まぁ、良いだろう。その時はちゃんと俺に一言かけてくれればな」

「はーい。それじゃ」

 なんとか脱出することには成功。パンイチ姿を見せられたとは言え、飲料の約束も取り付けられた。まぁまぁな成果じゃ無いだろうか。

 リビングから出たあたりで中からくしゃみが聞こえた気がした。

 

伊藤園 スーパーフルーツC スパークリング 250ml×30本」

 

 

コーヒーゼリー

 子どものころはとにかく甘いモノが大好きだった。

 家におやつがあれば一日の制限の中で食べてたし、時には小銭を握りしめて駄菓子屋へ向かったりもした。この頃は食べることと遊ぶことが正義だった。

 中学生くらいになってからそれは少しづつ変化し始めた。

 コーヒーなんて苦いモノを(砂糖・ミルク込みで)飲み始めたり、甘さ一辺倒なモノは段々苦しくもなって来ていた。これもまた成長という事なのだろうか。

 二十歳になるころにはその傾向はさらに強くなっていった。

 ブラックは普通に飲めるようになっていたし好むようになった。甘いものはシンプルな甘さに惹かれることが多くなり、濃いものはたまにしか食べなくなった。甘いモノよりも苦いモノを日常的に摂取するようになって子どものころはとは大分様変わりしてしまった。

 そして今。

 コーヒーゼリーというモノに出会った。甘いモノと苦いモノの間を彷徨っていた私にとってそれは画期的であった。苦味の中に甘味がある、その組み合わせは衝撃だった。苦いだけじゃない、甘いだけでもない。その両方を堪能するというのは私の中で味覚だけでなく、ある種の人生観にまで昇華された。

 今日もまた、冷蔵庫からコーヒーゼリーを取り出す。

 

安曇野食品工房 SWEET CAFÉ 珈琲ゼリー」

 清濁併せ呑む。ならずに、甘苦合わせ食す。

扇子

 連日のように茹だるような暑さが続く夏の夜。僕は待ち合わせ場所に指定してあるとある公園の前で立ちつくしていた。……暑い。

 昼に縁日のお祭りに参加する約束をして、この公園前で集合と決めてきたのは彼女の方からだった。約束の時間にはまだ少しあるのでこちらが早く来すぎてしまっただけである。まだしばらくは待つことになりそうだ。

 辺りは既に日が落ちており夜の暗さが敷き詰められている。この公園は会場からは離れているので人だかりはほぼほぼ無く、虫の鳴き声が遠くから聞こえてくる。夏の夜、とは言えども風はあまりなくじっとりと熱気が感じられる。ここでこれなら会場はもっと熱いかもしれないな。

 スマホに視線を落としていると、カランコロン、と下駄の音がこちらに近づいて来る。集中している風を装って顔は上げないでおく。

 おまたせ、と声を掛けられる。そこで初めて彼女の方をゆっくり向く。

 思わず目を見開く。その一場面だけ一瞬止まったように僕は思えた。年相応に明るい色合いに淡い花柄が描かれた浴衣にいつもと違い髪を下している。これは去年も見た。だが今年はそれらを纏めるかのように先が薄い青色で染められた扇子。それが存在感を放っていた。

 視線から扇子に目が行ってることに気付いた彼女はこれいいでしょ、と自慢気に見せてくる。思わず、浴衣に似合っていて良いね。と答える。

 それに気を良くした彼女は扇子を持っていない手をこちらに差し出してにこやかに言った。

 ほら、早く行きましょ?

 この瞬間が今日一番だな、と確信してしまった。僕はその手を取って、ゆっくりと歩き出した。 

 

「青竹京堂 扇子&扇子袋」シリーズ

 夏の夜。そんなときに、これは美しい。

目覚ましテーブルライト

 教室の出席パネルに出席登録を済ましてからいつもの後ろ側の席へ向かう。そこの隣にはいつもの友人がスマホに目を向けながら座っていた。

「……よーっす、トーヤ」

 少し眠さから億劫な感じになった。声を掛けるとトーヤはすぐこっちに向いていつものにんまりとした笑顔で返事をしてくる。

「やぁやぁダイスケ君。今日はなんだか気だるげな感じだね」

「やっぱ分かる?」

「なんだか眠そうって感じ」

 奴はエスパーか。もしくは顔面表情判断士の資格を持っているのかもしれない。

「一人暮らしを始めてから夜更かしが多くなってきて朝が辛いんだよ。一人暮らしの先輩としてなんか良い案ない?」

 ここ最近の悩みをあっさり尋ねてみる。こういうときは友人に頼るべきだ。他力本願とも言える。

「学年は同輩だけどね。その問題は僕も始めたての頃はあったなぁ。早めに解決しとかないと体のサイクルが狂っちゃうからね。それでよく遅刻してたなー」

「やっぱりそうなるか……」

 薄々感じてたけどやっぱ砕けた口調の割には真面目だわ。まぁ今はその真面目さに縋っているのだが。

「そんなキミにはこんなのはどーだい?」

 そう言ってトーヤはスマホの画面を見せてくる。

「なになに……目覚ましテーブルライト?」

「そう。正確には目覚ましアラームが付いたテーブルライト。もしくはその逆かな。光の段階が調節出来てカーテンがあっても自然な感じで光を感じられるようになってるんだよ。さらに自然音を意識したアラームもあってさらに爽快な気分に~」

 商品説明が勢いづいたトーヤは喋り続けている。よくもまあそんなにスラスラと単語が出てくるもんだな。意外とお勧め好きなのか……?

「分かった。分かったから後は通販サイトとか見て回ってみるよ」

「……そう?まだ続けられるよ?」

「ほら、もう講義始まるから。な?」

「確かにもうそんな時間かい。ぜひそれ系を買ったら感聞かせてね~」

 そう言ってトーヤはスマホの画面に顔を落とした。危ない、あんな一面が在ったとは……。

 数分後、 聴き慣れたチャイムが鳴り講義が始まる。俺はスマホで通販サイトを見て回っていた。

 数分後、ポチった。

 

「HomLead 目覚まし時計 Wake Up Light 6種類の自然音 アラーム ベッドサイドランプ 3段階調光 タッチセンサー ウェイクアップライト 朝日模擬光目覚まし時計 おしゃれ led 時計 寝室 室内用 テーブルライト」

 朝を気持ちよく迎えるために私たちは眠るのだ。これはそのための一歩である。

スマートノート

 書く。書く。書く。

 時に綺麗に描くために素早く丁寧に。時に重さを表現するために遅く荒々しく。そして、時々間違えたところを修正しながら。私は高校の教室で黙々とスケッチを続けていく。

 ……うん、出来た。今回のはこの教室から見える校庭にある一本の木とその周辺の細々としたものを描いた絵だ。私は日常的に見る風景が好きだったから書くのはいつもそればっかりである。

 さっそくスマートノートで描いた絵を専用アプリ「CamScanner」を使ってスマホに読み取る。これでこの絵は何時でも、どこでも見直すことが出来る。

 ここ最近書き過ぎたので、そろそろノートの空白ページが少なくなってきたので消すことにしようと思う。

 バッグからウェットティッシュを取り出して、それをノートのページを拭いていく。それだけで今まで様々なモノが描かれたページはまた元の空白に戻っていく。これはストーンペーパーとフリクションの特性を生かしたものでまた何度でも空白に戻すことが出来る。もちろん書いてきた絵は全てアプリに保存してある。

 さて、また真っ白になってしまったノートを見て考える。

 次は何を描こうか。

 

「NEWYES 半永久的に使えるノート A5 スマートノート 耐水 濡れた布で消せる Everlast 電子ノート 消せるノート 文房具 おもしろ NEWYES ドット入り罫線 データ管理機能付き エコ 500回繰り返し使える 一年保証付き (A5)」

 書く。保存する、消す。貴方なら次のページはどうする?

 

バランスボール

 時に健康補助アイテム。時に遊び道具。そして、時に椅子。

 それが現在、我が家で自分のお尻の下に惹かれている「それ」の立ち位置であった。

 やってきた……というか買ってきたのは半年前ほど。元々は本来の使用用途である

筋トレのためだった。のだが、三カ月を過ぎたあたりでテンションのピークが

きて置いたままにしていた。

 そこに子どもが目をつけ、遊び道具と化したのが二か月前。その二週間後には妻が興味を持ち健康器具に生まれ変わり、その姿をみた自分が今度は椅子として使い始めたのが先月の話である。

 サイズがサイズなので子どもには自分か妻が居る時間の夕方以降のみとにしている。そして空いた昼の時間を妻が、二人の後の夜は自分が利用するように、といつの間にかサイクルが出来ていた。

 当初の使い方から外れてしまっているかもしれない。が、これはこれで人気なので良いのでは?と思い始めてもいる。

 先ほどから子どもの視線をハッキリと感じる。そろそろ交代しなければいけないだろうか。

 使うか?と声を掛ける。

 うん、と顔を輝かせながら元気な返事が聞こえた。

 

「DG Japan Active Winner バランスボール 55cm ポンプ付 エクササイズボール 全4色 アンチバースト」

 硬くならず、柔軟に。それはあるべき一つの形。……なのかもしれない。